「FXの出来高に意味がない」とよく言われますが、本当にそうでしょうか。確かに株式市場と違い、店頭取引が中心のFX市場では、全体の出来高を正確に把握することはできません。しかし、ティックボリュームなどを適切に活用することで、相場分析に有効な情報を得ることが可能です。

本記事では、FXにおける「出来高」の基礎知識から実践的な手法、おすすめのインジケーターまで、体系的に解説していきます。出来高分析を味方につけて、トレード精度を向上させましょう。

FXの「出来高」とは？

FXにおける出来高とはどのようなものなのか、以下3つの項目から解説します。

そもそも出来高とは？株式とFXでの違い

出来高とは、一定期間内に成立した取引の量を示す指標です。相場の活発さや参加者の関心度を測る重要な情報として、多くのトレーダーに活用されています。

株式市場とFX市場では、出来高の性質に大きな違いがあります。株式市場では中央取引所で全ての取引が集約されるため、正確な出来高データを取得できます。全投資家の取引量が一元管理されており、リアルタイムで信頼性の高いデータが提供されるのが特徴です。

一方、FX市場はOTC市場（店頭取引）であるため、統一された出来高が存在しません。各ブローカーが保有するのは局所的なデータのみで、全世界の取引量の把握が困難な構造となっています。

＜株式市場とFX市場の出来高比較＞

市場	株式	FX
データの特徴	中央取引所で正確な数値	OTC市場で統一データなし
管理方法	全投資家の取引量を一元管理	各ブローカーの局所的データのみ
信頼性	リアルタイムで信頼性が高い	全世界の取引量把握は不可能

この根本的な違いが、FXの出来高に意味がないと言われる理由の1つです。ただし、不完全な情報でも適切に活用すれば、相場に勝つための分析が可能です。

ティックボリュームと実出来高の違い

FXにおける出来高分析では、「ティックボリューム」と「実出来高」の区別を理解しておかなければなりません。

ティックボリュームとは、価格変動が発生した回数をカウントする指標で、取引量の指標として使用されます。MT4/MT5で標準的に表示される数値がこれに該当し、多くの個人トレーダーが日常的に目にしているデータです。

実出来高とは、実際に取引された通貨の総量を指します。ただし、FX市場では正確な計測が困難なため、一部のブローカーや分析ツールで推定値として提供されているのが現状です。

なお、ティックボリュームでも相場の勢いや転換点を判断する上で十分な情報を得られます。完璧ではないものの、相場参加者の数や動きを測る指標として実用的な価値を持っています。

出来高が注目される理由

出来高が重要視される理由は、価格変動の「裏付け」を確認できることにあります。単純な価格の動きだけでは判断できない、相場参加者の本気度や関心の高さを数値化して把握できます。出来高分析によるメリットは、以下のとおりです。

このように、出来高だけでもさまざまな分析が可能です。

FXの出来高に意味がないと言われる理由

FXの出来高に意味がないと言われる理由は、以下のとおりです。

FX市場には正確な出来高が存在しないから

FXで出来高に意味がないと言われる最大の理由は、市場構造そのものにあります。株式市場のような統一された取引所が存在せず、世界中の銀行、ブローカー、機関投資家が個別に取引を行っているため、取引全体を集計する仕組みが存在しません。FXの市場構造の問題点は以下のとおりです。

ただし、このような制約があるからといって、FXの出来高に意味がないというわけではありません。限定的ではあっても、トレーダーが利用するブローカー内での相対的な比較や傾向把握には十分活用できます。

業者ごとに出来高のデータが異なるから

FXの出来高分析の問題点として、業者ごとのデータの違いがあります。同じ通貨ペアであっても、ブローカーによって出来高の数値が大きく異なることは珍しくありません。

この違いは、ティックカウント方式やタイムフレーム設定の相違、顧客層の違いによるものです。機関投資家向けのプラットフォームと個人投資家向けのサービスでは、取引パターンも出来高の傾向も異なります。また、表示形式についてもヒストグラムや数値表示、色分けなどさまざまな方法があり、視覚的な判断にも影響を与えるでしょう。

業者ごとに出来高データの統一性がないことにより、複数のソースから情報を得ようとすると混乱が生じやすくなります。その結果、一貫した戦略を立てるのが難しくなっています。

出来高への依存はリスクがあるから

出来高のみに依存した場合、以下のようなリスクがあります。

このようなリスクがあるため、FXの出来高に意味がないと言われています。実際に出来高のみに依存した判断は危険なので、他のテクニカル指標やファンダメンタル分析と組み合わせた総合的な判断が必要です。

FXにおける出来高の有効性

ここからは、FXにおける出来高の有効性を以下3つの観点から見ていきましょう。

ティックボリュームと実出来高に相関性がある

ティックボリュームと実出来高には、相関関係があります。特に主要通貨ペアの取引時間中や重要な経済指標発表前後では、この相関関係が強く現れる傾向があります。

実際のトレードでは、多くのトレーダーがティックボリュームを短期判断指標として活用し、スキャルピング戦略での確認ツールやブレイクアウト手法でのフィルター機能として重宝しています。完璧ではないものの、「使える指標」として多くの実践トレーダーに採用されているのは事実です。

ただし、出来高を絶対的な指標として捉えるのではなく、相対的な変化や傾向を読み取るツールとして活用することです。この視点で取り組めば、FXにおける出来高分析は十分な価値を提供します。

プライスアクションとの組み合わせで精度が向上する

出来高単体では限界がありますが、ローソク足のプライスアクションと組み合わせることで分析精度が飛躍的に向上します。この組み合わせによる分析こそが、出来高を有効活用する最も実践的なアプローチです。効果的な組み合わせパターンには、以下のようなものがあります。

プライスアクションと出来高を組み合わせた分析手法を習得することで、見落としがちな転換などのサインを捉えられる可能性が高まります。

海外トレーダーの手法にも活用されている

海外では出来高を活用した高度な分析手法が確立されており、その有効性が広く認められています。これらの手法がグローバルに普及し、実際の運用で成果を上げていることは、出来高分析に実用性がある証拠といえるでしょう。なお、海外トレーダーの手法には、以下のような出来高のインジケーターがよく使われています。

代表的なものがVSA（Volume Spread Analysis）で、出来高・値幅・終値の三要素の関係を分析してプロトレーダーの心理を読み解くものです。また、VPVR（Volume Profile Visible Range）というインジケーターでは、価格帯別の出来高分布を可視化することで重要な価格帯を特定し、機関投資家レベルの分析を可能にしています。

出来高を使ったFX手法3選｜実践的な使い方を紹介

出来高を活用した、以下3つのFX手法を解説します。

①ブレイクアウト時の出来高増加をチェック

ブレイクアウト手法において、出来高は「ダマシ」を回避するフィルターとして機能します。多くのトレーダーがブレイクアウト手法で苦戦する理由の1つが、価格だけを見てエントリーしてしまうことです。出来高を併用することで、ダマシによる損切りを大幅に改善できます。

具体的な判定方法として、レジスタンスラインやサポートライン突破時の出来高を通常の2倍以上確認できれば、そのブレイクアウトの信頼度は向上します。重要な価格帯でのもみ合いを確認した後、実際のブレイクアウトの瞬間に出来高の急増を確認してからエントリーすることで、勝率を大幅に改善できるのです。

逆に、出来高を伴わないブレイクアウトは短期的な動きに終わる可能性が高いため、様子を見たほうがよいでしょう。このシンプルなルールだけでも、ブレイクアウト手法の成績は改善されます。

②出来高×移動平均線（MA）の併用

移動平均線と出来高を組み合わせることで、トレンドの継続性と強さを判断できます。この手法の優れた点は、トレンドの「質」を定量的に評価できることです。移動平均線と出来高の状態を見たときの判断の目安は、以下のとおりです。

移動平均線の状態	出来高の状態	判断
上昇中	増加	強い上昇トレンド継続
上昇中	減少	トレンド減速の可能性
下降中	増加	強い下降トレンド継続
下降中	減少	下降トレンド減速

移動平均線が上昇している局面で出来高も増加している場合、強い上昇トレンドが継続している可能性が高く、積極的な買いポジションを検討できます。一方、移動平均線は上昇しているものの出来高が減少している場合はトレンドの減速を示唆しており、利益確定や新規エントリーの見送りを検討すべきタイミングです。

具体的には、20期間移動平均線と50期間移動平均線を基準とし、出来高は過去10期間の平均と比較する方法が効果的です。確認する時間足は1時間足または4時間足が適しており、日足レベルでの大きなトレンド確認にも活用できます。

③レンジ相場での逆張り判断に使う

レンジ相場では、出来高の変化が相場の転換点や継続を判断する重要な手がかりです。レンジ相場特有の値動きの中で、出来高の微妙な変化を読み取ることで、より精度の高い逆張り戦略を立てられます。レンジ相場で出来高をどのように判断するのか、例を3つ挙げました。

RSIやボリンジャーバンド、ストキャスティクスなどのオシレーター系指標と出来高を組み合わせることで、レンジ相場での逆張り精度をさらに向上させられます。特に、RSIが30以下または70以上を示している局面で、レンジの境界線付近での出来高の動きに注目することで、エントリータイミングの精度を大きく高められます。

おすすめのFX出来高インジケーターと設定方法

ここでは、以下の2点を解説します。

TradingViewで使える代表的なインジケーター

世界中の投資家が活用しているチャートツールのTradingViewでは、さまざまな出来高分析ツールが利用可能です。そのなかでも、特に利用されているインジケーターを以下の表にまとめました。

インジケーター	特徴	機能	対象レベル
Volume	シンプルな出来高表示	色分け機能	初心者向け
VPVR （Volume Profile Visible Range）	価格帯別出来高分布	POC（※）特定	上級者向け
VSA （Volume Spread Analysis）	出来高・値幅・終値分析	プロ心理読解	中級者以上

※POC（Point of Control）とは、一定期間において最も取引量が多かった価格帯のこと

これらは、TradingViewのインジケーター検索に入力すれば簡単に見つけられるので、いくつか試してみてください。

MT4/MT5で出来高を表示する方法

MT4/MT5では、それぞれ以下の手順で出来高表示が可能です。

MT5の場合、提供しているFX業者によっては出来高が表示できない場合があります。その場合は標準インストールされている出来高のインジケーター「Volumes」を使用すると、出来高が表示されます。

より高度な分析を求める場合は、以下のようなカスタムインジケーターを導入しましょう。

出来高に関するインジケーターは、さまざまな種類があります。多くのインジケーターは無料で利用できるので、試してみて自分に合ったものを見つけましょう。

出来高と相性が良いテクニカル指標

出来高分析の効果を高めるには、他のテクニカル指標との組み合わせが不可欠です。特に相性がよいとされる以下のような指標を活用することで、単独では見えない相場の本質を捉えられる可能性が高まります。

テクニカル指標	組み合わせ効果
MACD	・トレンドの勢いと出来高照合 ・ダイバージェンス信頼性向上 ・エントリータイミング精度アップ
RSI	・過熱感と出来高ズレ分析 ・30/70ライン出来高確認 ・逆張り判断精度向上
ボリンジャーバンド	・バンドウォーク出来高確認 ・スクイーズ後急増チェック ・エクスパンション継続性判断

MACD（Moving Average Convergence Divergence）は、トレンドの勢いと出来高の関係を確認する上で非常に有効です。MACDラインとシグナルラインのクロスに出来高の増加が伴えば、そのシグナルの信頼性は大幅に向上します。また、ダイバージェンス発生時の出来高動向をチェックすることで、トレンド転換の可能性をより正確に判断できます。

RSI（Relative Strength Index）との組み合わせでは、過熱感と出来高のズレを利用した逆張り判断が可能になります。RSIが30以下や70以上を示している状況で、出来高が急減している場合は反転の可能性が高まります。この組み合わせにより、単純なRSI反転シグナルよりも精度の高いエントリーが可能です。

ボリンジャーバンドでは、バンドウォーク発生時の出来高増加確認やスクイーズ後の出来高急増をチェックすることで、大きな値動きの継続性を判断できます。

FX業者別に見る出来高データの違いと注意点

国内と海外のFX業者の出来高データには、どのような違いがあるのでしょうか。ここからは、以下の3つを見ていきましょう。

国内FX業者の出来高の見方

国内FX業者では、独自の出来高情報や関連データを提供している場合があります。特に注目すべきは単純な出来高数値だけでなく、オーダーブック情報や顧客ポジション比率など、より詳細な市場情報を提供する業者が増えていることです。3つの国内業者を例に、それぞれの特徴を見てみましょう。

国内FX業者名	提供情報	特徴
OANDA Japan	出来高＋オーダーブック	機関投資家レベルの詳細情報
外為どっとコム	板情報・注文情報	顧客ポジション比率も確認可能
GMOクリック証券	取引高ランキング	人気通貨ペアの動向把握

それぞれ相場に活用できるデータを提供しているものの、各社で集計方法が異なることや、顧客層の違いによるデータの偏りがあることには注意しなければなりません。また、リアルタイム性についても事前に確認しておくことが重要です。

海外FX業者の出来高の見方

海外FX業者では、主にMT4/MT5を通じて出来高情報を提供しています。多くの業者で共通しているのは、標準的なティックボリューム表示に加えて、豊富なカスタムインジケーターへの対応です。3つの海外FX業者を例に、それぞれの出来高分析の特徴をまとめました。

海外FX業者名	出来高分析の特徴
XM Trading	豊富なカスタムインジケーター対応
TitanFX	高速執行環境での正確な出来高表示
AXIORY	cTrader利用で詳細な出来高分析

さらに、高機能なツールとの連携も海外FX業者の魅力です。Bookmapによる板情報の可視化、MarketDeltaのフットプリントチャート、NinjaTraderの高度な出来高分析機能など、プロトレーダーレベルの分析環境を構築できます。

これらのツールを活用することで、個人トレーダーでもハイレベルな出来高分析が可能になります。

比較ポイントと注意すべき点

出来高分析を行う際の最も重要なポイントは、データの一貫性を保つことです。同一業者での長期間利用を強く推奨するのは、途中でプラットフォームを変更すると過去データとの比較ができなくなり、分析の精度が著しく低下するためです。

表示形式の統一も重要な要素です。ヒストグラム表示の設定や色分けルール、数値スケールを標準化することで、視覚的な判断の一貫性を保つことができます。また、更新頻度の確認も欠かせません。リアルタイム更新の可否や遅延時間、特に重要経済指標発表時の更新状況を事前に把握しておく必要があります。

比較・注意ポイント
データの一貫性	・同一業者での長期利用 ・プラットフォーム変更回避 ・バックテスト時の統一性確保
表示形式	・ヒストグラム設定統一 ・色分けルール一貫性 ・数値スケール標準化
更新頻度	・リアルタイム更新可否 ・遅延時間把握 ・ニュース時更新状況確認

これらの点を十分に検討し、自分のトレードスタイルに最適な環境を構築することで、より精度の高い出来高分析が可能になります。長期的な成功のためには、環境の安定性と一貫性が何よりも重要です。

FXの出来高に意味がないと言われる理由 まとめ

FXにおける出来高は、完璧な指標ではないものの、適切に活用すればトレード精度向上に大きく貢献する有効なツールです。重要なのは、出来高を万能な指標として過信するのではなく、他のテクニカル分析と組み合わせた補助的な役割として活用することです。

ティックボリュームだけでも十分な分析価値があり、成功している多くのトレーダーが実際に活用している事実を見逃してはいけません。自分のトレードスタイルに合った出来高分析手法を見つけて、継続的な検証と改善により、出来高を味方につけていきましょう。