海外の人材を採用したい。けれど現地法人の設立には時間も費用もかかる——そんなときに選択肢になるのがEOR(雇用主代行)です。
EORを使うと、海外に自社の法人を持たないまま、現地の人材を法的に正しい形で雇用できます。この記事では、EORとは何か、どういう仕組みで動くのか、どんな企業に向いているのかを、これから検討する方に向けて整理します。
EORとは何か
まずはEORの基本を押さえます。ここでは、言葉の意味と役割分担、注目されている背景、そして実際の仕組みを順に見ていきます。
EOR(雇用主代行)の意味と役割分担
EORはEmployer of Recordの略で、日本語では「雇用主代行」などと訳されます。企業に代わって海外の従業員を雇用し、雇用契約・給与の支払い・社会保険の加入・納税といった労務関連の手続きを代行するサービス、またはその事業者を指します。
企業は現地に法人を設立することなく、その国の労働法に準拠した形で人材を雇用できるようになります。
ポイントは「法律上の雇用主はEOR事業者である」という点です。EOR事業者が現地で従業員と雇用契約を結び、給与や社会保険の手続きを担います。
一方で、日々の業務の指示は、実際にその人に働いてほしい依頼企業(あなたの会社)が出します。つまり「雇用の器」はEOR、「仕事の中身」は自社、という役割分担になります。
なぜEORが注目されているのか
背景にあるのは、海外で人を雇うことの難しさです。新しい国で従業員を雇おうとすると、通常は現地法人や駐在員事務所の設立が必要で、これには相応の時間・費用・専門知識がかかります。
さらに、国ごとに異なる労働法・税法・社会保険制度に正しく対応しなければなりません。海外法人の設立では、会社法や労働法だけでなく、外国投資法など複数の法律に注意が必要になる国もあります。
EORは、「現地法人の設立」という重いステップを省いて海外雇用を始められる手段として広まりました。リモートワークの普及で国境を越えた採用が現実的になったことも、利用が広がった一因です。
日本ではまだ一般的とはいえませんが、欧米やアジアの一部ではスタートアップを中心に「現地採用の第一歩」として使われるケースが増えています。
EORの仕組み
EORを使った海外雇用は、おおまかに次の役割分担で成り立ちます。
- EOR事業者の役割:現地での雇用契約の締結、給与の支払い、社会保険・税金の手続き、各国の労働法に準拠した労務管理
- 依頼企業(自社)の役割:採用したい人材の決定、日々の業務指示、成果の管理。現地のビジネスや事業成長に集中できる
この分担により、依頼企業は雇用にまつわる現地の法的・事務的な負担を切り離し、本来注力したい事業に集中できます。
EORを使うべきか
ここからは、EORが自社に合うかどうかを判断するための観点を整理します。向いているケースと向いていないケース、そして他の手段との違いを順に確認していきます。
EORが向いているケース
EORは、次のような状況の企業と相性が良い手段です。
- 海外展開を検討し始めた段階:現地法人の設立には時間とコストがかかるため、まず人材採用から小さく始めたい場合
- テストマーケティングや進出準備の期間:1〜2年のお試し期間を設けながら、現地市場を調べたい場合
- 即戦力の人材を海外から確保したい:特にIT分野などで、世界から条件に合う人材を探したい場合
- 撤退リスクを抑えたい:うまくいかなかった場合の撤退コストを軽くしておきたい場合
EORが向いていないケース・注意点
一方で、EORがすべての状況に万能なわけではありません。次の点は事前に理解しておく必要があります。
- 現地で現金売上を生む事業には使いにくい:物販や飲食など、現地で直接売上を立てるビジネスには制限がある場合があります
- 長期・大規模になると自社設立の方が有利になりうる:同じ国で雇用人数が増えると、現地法人を設立した方がコスト面で見合う段階が来ます。どこが分岐点かは費用の記事で扱います
- 料金は「手数料」であり総額ではない:EORの利用料は給与や現地の税・社会保険とは別にかかります。総額の考え方は費用の記事で詳しく解説します
自社の状況がEORに向いているかどうかは、「何人を」「どの国で」「どのくらいの期間」雇いたいのかで変わります。判断の手順はEORの選び方で整理しています。
EORと他の手段の違い
海外で人を活用する手段はEORだけではありません。現地法人の設立、人材派遣、業務委託(フリーランスへの発注)などと、どう違うのかを理解しておくと選択を誤りにくくなります。それぞれの違いは次の記事で個別に解説しています。
EORの費用とサービスの選び方
EORを具体的に検討する段階になったら、次の2つを押さえるのが近道です。
- 費用の全体像:費用は手数料だけでなく給与・現地の法定費用を合わせた総額で考える必要があり、その考え方はEORの費用相場で解説しています。
- 主要サービスの比較:主要なEORサービスの違いはEORサービス比較で、対応国・料金・サポート体制などの観点から整理しています。
よくある質問
EORでは、誰が雇用主になるのですか?
法律上の雇用主はEOR事業者です。EOR事業者が現地の従業員と雇用契約を結び、給与の支払いや社会保険・税金の手続きを担います。一方、日々の業務指示は依頼企業(自社)が行います。「雇用の器」はEOR、「仕事の中身」は自社、という役割分担になります。
EORはどのような段階の企業に向いていますか?
海外展開を検討し始めた段階や、現地市場を1〜2年試したいテストマーケティングの期間に向いています。現地法人の設立を省いて小さく始められるため、撤退リスクを抑えたい場合にも有効な手段です。
EORの利用料金には何が含まれますか?
EORの利用料は給与や現地の税・社会保険とは別にかかります。費用の総額を考える際は、手数料だけでなく給与・現地の法定費用を合わせた全体像で把握する必要があります。
EORが向いていないケースはありますか?
現地で直接売上を立てる物販や飲食などのビジネスには制限がある場合があります。また、同じ国での雇用人数が増えると、現地法人を設立した方がコスト面で有利になる段階が来ることも考慮が必要です。何人を、どの国で、どのくらいの期間雇いたいかによって判断が変わります。
まとめ
EORは、海外に法人を持たずに現地の人材を雇用できる仕組みで、法律上の雇用主をEOR事業者が担い、業務の指示は自社が行います。
海外展開の第一歩や、撤退リスクを抑えたいテスト段階で特に有効です。次のステップとして、費用の全体像とサービス比較を確認すると、自社に合うかどうかの判断が進みます。
本記事は、EORサービス各社の公式情報および社会保険労務士法人・人材会社などが公開する解説情報をもとに、当サイトの編集ポリシーに沿って作成しています。
制度や各社サービスの内容は変わる場合があるため、最新の情報は各提供元でご確認ください。情報は2026年4月17日時点のものです。

