戦費と支援から見るウクライナ戦争の経済的影響

戦費と支援から見るウクライナ戦争の経済的影響

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以来の欧州最大の戦争となり、世界経済に大きな影響を与えています。この戦争では、ウクライナへの国際支援とロシアの軍事支出という形で、かつてない規模の資金が動いています。戦争の長期化に伴い、その経済的影響は年々拡大し、世界経済を不安定にさせる要因となっています。

世界各国からウクライナへの支援状況

出典:statista「Total bilateral aid allocations to Ukraine between January 24, 2022 and June 30, 2024, by donor and type」

アメリカは最大の支援国として、2024年6月までに751億ユーロ(約12兆円)という巨額の支援を実施しています。この支援の内訳を見ると、約516億ユーロ(約8.4兆円)が軍事支援に、残りが財政支援に充てられています。

特筆すべきは、支援総額の84%がアメリカ国内の企業や軍事施設、同盟国の軍事力強化に使用されており、アメリカ経済にも好影響を与えている点です。なお、主要国が中心としている支援は以下のとおりです。

中心の支援支援額
アメリカ軍事支援約516億ユーロ(約8.4兆円)
EU財政支援約370億ユーロ(約6兆円)
ドイツ軍事支援約102億ユーロ(約1.5兆円)
イギリス軍事支援約89億ユーロ(約1.4兆円)
日本財政支援約80億ユーロ(約1.3兆円)

EU(欧州連合)も、アメリカに次ぐ規模の支援を展開しています。EUとその加盟27カ国による支援総額は370億ユーロ(約6兆円)に達し、積極的な支援を行っています。さらに2024年から2027年までの期間で、520億ユーロ(約8.5兆円)の追加支援を決定し、ウクライナの復興を支援する予定です。

ウクライナ経済の現状と課題

世界銀行の試算によると、ウクライナの戦後復興には最低7000億ドル(約110兆円)が必要とされています。現在のウクライナ経済は深刻な状況に陥っており、GDPは戦前の約65%まで低下し、インフレ率は20%を超え、失業率は30%近くまで上昇しています。戦争によるウクライナの経済的損失は、以下のとおりです。

  • インフラ被害:3000億ドル(約45兆円)以上
  • 農業輸出の激減:前年比60%減
  • 工業生産の低下:戦前比45%減
  • 対外債務の増加:GDP比85%

ロシアの軍事支出と経済への影響

ロシアの2025年度予算案における軍事支出は13兆5000億ルーブル(約20兆円)に達し、これは国家予算全体の32.5%を占めています。この巨額の軍事支出を支えるため、ロシア政府は法人税率を20%から25%へ引き上げ、個人所得税の累進課税を強化し、国債発行を増加させています。主な経済制裁の影響は、以下のとおりです。

  • 国際決済システム(SWIFT)からの排除
  • 主要外国企業の撤退
  • 技術輸出の規制
  • 金融市場へのアクセス制限

世界経済への影響

この戦争は、エネルギー市場に大きな変化をもたらしています。天然ガス価格は戦争開始後、一時的に10倍以上に高騰し、特に欧州諸国のエネルギーコストを押し上げました。これにより、多くの国がエネルギー政策の見直しを迫られ、再生可能エネルギーへの移行を加速させています。エネルギー市場への影響は、以下のとおりです。

  • 天然ガス価格の高騰:戦前比最大10倍
  • 原油価格の上昇:一時1バレル120ドル(約19,000円)超
  • 再生可能エネルギーへの投資加速
  • LNG取引の急増:アジアからの輸入量2倍以上

食料価格の面でも深刻な問題に直面しています。ウクライナとロシアは世界の小麦輸出の約30%を占めており、両国からの輸出減少は世界的な食料価格の上昇を引き起こしているのです。特にアフリカや中東の発展途上国では、深刻な食料危機が懸念されています。

また、戦争の長期化は、国際金融市場にも大きな影響を与えています。株式市場では、特に防衛関連企業の株価が上昇する一方、エネルギー多消費型産業の株価は下落傾向にあるといえるでしょう。為替市場では、地政学的リスクの高まりを受けて、安全資産とされる円やスイスフランへの資金シフトが見られる場面もあります。金融市場の主な変化は、以下のとおりです。

  • 防衛関連株の上昇:平均30%以上の株価上昇
  • コモディティ価格の高騰
  • 新興国通貨の下落
  • 金価格の上昇

経済面における今後の課題

IMFの予測によると、ウクライナの経済回復には最低でも10年以上かかるとされています。一方、ロシア経済も技術革新の遅れや人材流出の継続、国際競争力の低下など、構造的な問題に直面しているといえるでしょう。

世界経済全体としては、エネルギー供給の多様化やサプライチェーンの再構築、食料安全保障の強化が急務となっています。また、軍事支出の増大が各国の財政に与える影響も、無視できない問題となっているのではないでしょうか。

まとめ

ウクライナ戦争は、当事国のみならず世界経済全体に大きな影響を与え続けています。エネルギー価格の高騰や食料安全保障の問題は、多くの国々の経済に深刻な影響を及ぼしているといえるでしょう。国際社会による支援は継続されていますが、戦後の復興には膨大な時間と費用が必要となることが予想されます。

特に注目すべきは、この戦争が世界経済の構造的な変化を加速させている点です。エネルギー政策の転換やサプライチェーンの見直し、食料安全保障の再考など、多くの分野で従来の経済システムの見直しが進められています。また、ロシアの軍事支出の増大は、同国の経済に構造的な歪みをもたらしており、その影響は長期化する可能性が高いと考えられるでしょう。

これらの状況を踏まえ、国際社会は経済的な支援と制裁のバランスを取りながら、平和的な解決に向けた取り組みを続けていかなければなりません。世界経済の安定的な発展のためにも、この紛争の早期解決が望まれます。