NetflixやSpotifyをはじめ、私たちの生活に深く浸透したサブスクリプションサービス。ビジネスの世界でも、クラウド上でソフトウェアを提供するSaaSが急成長を遂げてきました。しかし最近、SaaSは終わるのではないかという声が聞かれるようになっています。
企業も個人も、増え続けるサブスク料金に疲れを感じ始めているのです。本当にSaaSビジネスモデルは限界を迎えているのでしょうか。クラウドコストの高騰や解約率の上昇といった課題を抱える中で、次世代のビジネスモデルはどのような形になるのか。若い世代が将来働くかもしれないテック業界の大きな転換点を、分かりやすく解説していきます。
SaaSは終わると言われる理由

2010年代、SaaSは革命的なビジネスモデルとして注目を集めました。従来のソフトウェアは高額な初期費用を払って購入し、自社のサーバーにインストールする必要がありました。しかしSaaSなら月額料金を払えば、インターネット経由ですぐに使い始められます。初期投資が少なく、常に最新版が使えるという利便性から、多くの企業が導入を進めてきました。
SaaS(サース):Software as a Serviceの略で、インターネット経由でソフトウェアを提供するサービスモデルのこと。
日本のSaaS市場は2024年に約1.4兆円に達し、2028年には2兆円規模へ成長すると予測されています。世界市場も2024年に約48兆円、2025年には約72兆円に達する見込みです。

ところが2024年頃から、状況が変わり始めています。企業が契約しているSaaSの平均数は増え、その管理だけでも大きな負担になっているといいます。個人向けサービスでも同様で、気づけば毎月数千円から1万円以上の支払いが発生している人も珍しくありません。
サブスク疲れが広がる背景

企業と個人、それぞれが抱えるサブスク疲れの実態を見てみましょう。
日本国内の消費者向けサブスクリプション市場は、2022年に約8,965億円に達しました。2021年の7,875億円から約12%増加しており、市場は拡大を続けています。しかし、利用者の約40%が過去1年以内に何らかのサービスを解約したという調査結果もあります。
サブスクリプション(サブスク):サービスや製品を、利用期間に応じて月額・年額で利用料を支払うビジネスモデル。

企業が直面している課題としては、以下のようなものが挙げられます。
- 部署ごとに契約したSaaSが重複して無駄なコストが発生している
- 年々値上げされる料金に予算が追いつかなくなっている
- 従業員が退職してもアカウントが残り不要な支払いが続いている
企業だけでなく、個人の場合も深刻です。動画配信、音楽配信、オンラインストレージ、ニュースアプリなど、複数のサービスに加入することで家計を圧迫するケースが増えています。
SaaSビジネスモデルが抱える構造的な問題

SaaSビジネスモデルには、いくつかの構造的な限界が見えてきています。
まず解約率の問題です。競合が増え、顧客は簡単に他社サービスへ乗り換えられるようになりました。次に価格競争の激化です。似たような機能を持つサービスが乱立し、差別化が難しくなっています。
上場SaaS企業のARRを見ると、上位のARR300億円を超える企業は依然として年率25%以上の成長率を維持していますが、中位以下の企業では成長率が10%を下回るケースも出始めています。市場が成熟期に入りつつある現在、SaaS企業の二極化が進行しているのです。
ARR(エーアールアール):Annual Recurring Revenueの略。年間経常収益のことで、SaaS企業の成長を測る重要な指標。
次世代ビジネスモデルの可能性

SaaSが終わると言われる一方で、新しいビジネスモデルも生まれています。
注目される次世代モデルとしては、AI統合型サービス、従量課金制の進化、垂直統合プラットフォームがあります。特にAI統合型サービスは大きな可能性を秘めています。従来のSaaSは、人間が操作するためのツールでした。しかし次世代のサービスは、AIが主体となって業務を遂行します。
例えば、経理ソフトに数字を入力するのではなく、AIが自動的に請求書を読み取り、仕訳を行い、支払いまで完了させるといった具合です。日本を代表するSaaS企業も、変化に対応しようとしています。以下3つの企業の例を見てみましょう。
単なるデータベースから、営業活動全体を支援するプラットフォームへと進化を遂げている
中小企業向けに特化しながら、給与計算や請求書発行など、バックオフィス業務全般をカバーする方向へ拡大している
人事データを中心に、採用から退職までの従業員ライフサイクル全体を管理できるプラットフォームを目指している
これらの企業に共通するのは、単機能のツールから業務全体を支援する総合プラットフォームへの転換です。顧客にとっての価値を高めることで、長期的な関係を築こうとしているのです。
まとめ
SaaSは終わるのではなく、進化のフェーズに入ったと言えるでしょう。サブスク疲れやクラウドコストの高騰といった課題は確かに存在しますが、それは次のステージへ進むためと言えます。単にソフトウェアを提供するだけでなく、AIを活用して業務そのものを変革する。複数のサービスを統合し、顧客の負担を減らす。
こうした進化を遂げられる企業が、次の時代を生き残っていくはずです。若い世代の皆さんがこれから社会に出る頃には、今とはまったく違うビジネスモデルが主流になっているかもしれません。テクノロジーの進化は止まりません。変化を恐れず、新しい価値を創造する姿勢こそが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。

