相対的貧困率が示す日本の格差社会

「日本は豊かな国」というイメージを持っている人は多いかもしれません。たしかに国全体の経済規模は世界第3位を誇り、街には商品があふれています。しかし、その豊かさは本当に国民全体に行き渡っているのでしょうか。

実は日本では、相対的貧困率が先進国の中でも高い水準にあり、多くの人々が「見えない貧困」に苦しんでいるのです。特に子どもの貧困は深刻で、7人に1人が貧困状態にあるとされています。この問題は経済的なものだけでなく、教育や健康、将来の就労機会にまで影響を及ぼす社会問題といえるでしょう。

相対的貧困率とは

相対的貧困率とは

貧困には大きく分けて「絶対的貧困」と「相対的貧困」の2種類があります。

絶対的貧困とは、生きていくために最低限必要な衣食住や基本的サービスが満たされない状態のことです。たとえば、世界的に見ると1日1.9ドル未満で生活する人々は絶対的貧困状態にあるとされています。これは、主に発展途上国で問題となっている貧困の形です。

一方、相対的貧困はその社会における標準的な生活水準と比較して、著しく低い状態を指します。具体的には、国の等価可処分所得(世帯の手取り収入を世帯人数の平方根で割った値)の中央値の50%未満の収入しかない状態を相対的貧困と定義しています。

出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」

たとえば日本の場合、2021年の相対的貧困の基準は単身世帯で約127万円/年。この基準に満たない人々の割合が「相対的貧困率」です。

日本の相対的貧困率は15.4%(2021年)と、OECD加盟国の中でも高い水準にあります。これは約6人に1人が相対的貧困状態にあることを意味します。

相対的貧困が生む見えない格差

相対的貧困が生む見えない格差

相対的貧困の問題点は、表面上は普通に生活しているように見えるため、周囲から理解されにくいことです。しかしその影響はさまざまな形で現れ、社会的な格差を生み出しています。

教育格差

家庭の経済状況は子どもの教育機会に大きな影響を与えます。たとえば、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 塾や習い事に通えない
  • 高等教育への進学率が低い(経済的理由による進学断念)
  • 学習環境に差がでる(自分の勉強スペースや参考書を持てないなど)

ベネッセ教育総合研究所の調査によると、年収300万円未満の世帯の大学進学率は45.0%であるのに対し、年収1,000万円以上の世帯では75.4%と大きく開いています。

出典:CHILD RESEARCH NET「【データで語る日本の教育と子ども】 第6回 「貧困の連鎖」を防ぐには―大学進学をめぐる日本の現状」
(調査データは東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する調査」による)

この教育格差は将来の所得格差につながり、貧困の連鎖を生み出す要因となっています。

健康格差

経済状況は健康状態にも影響します。以下で例を見てみましょう。

  • 医療機関への受診控え(お金がかかるため病院に行けない)
  • 栄養バランスの偏り(安価な食品に偏りがちな食生活)
  • 予防医療の機会損失(健康診断を受けられないなど)

厚生労働省の調査では低所得世帯ほど健康上の問題を抱える割合が高く、また医療機関への受診を控える傾向があることが示されています。

就労格差

相対的貧困は就労環境にも、以下のような影響を及ぼします。

  • 非正規雇用の増加(安定した収入が得られない)
  • スキルアップの機会不足(研修や資格取得のための時間や費用を確保できない)
  • 世代間での貧困の再生産(親の経済状況が子の就労状況に影響)

厚生労働省の労働力調査によると、非正規雇用労働者の割合は36.9%(2022年)に達しており、特に若年層や女性に多い傾向があります。

日本の社会保障制度の問題

日本の社会保障制度の問題

日本の相対的貧困率が高い背景には、社会保障制度の構造的な問題もあります。

生活保護制度の課題

生活保護は最後のセーフティネットとして重要な役割を担っていますが、さまざまな問題を抱えています。

生活保護の捕捉率(本来受給資格のある人のうち、実際に受給している人の割合)は約20~30%と推定されていますが、これは多くの人が支援を必要としながらも受給できていないことを意味します。

その理由として、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • スティグマ(恥辱感)による申請の躊躇
  • 複雑な申請手続き
  • 親族への扶養照会への抵抗感

一方で不正受給の問題も報道されることが多く、制度全体への不信感につながっているといえます。しかし、厚生労働省の調査によれば、不正受給は生活保護費全体の0.4%程度であり、実際には限定的な問題です。

「申請主義」による支援の届かなさ

日本の社会保障制度は「申請主義」を原則としており、支援を必要とする人が自ら申請しなければサービスを受けられません。しかし以下のような理由から、本当に支援が必要な人ほど申請できないという矛盾も。

  • 制度の存在自体を知らない
  • 複雑な手続きに対応できない
  • 精神的・身体的に申請する余裕がない

このような「申請主義」の壁によって、支援が必要な人に届かないという問題があるのです。

年金制度の世代間格差

日本の年金制度は、現役世代が高齢者を支える「賦課方式」を採用していますが、少子高齢化の進行によって現状の制度を継続するのはこの先厳しいかもしれません。

  • 現役世代の保険料負担増加
  • 将来の給付水準の低下懸念
  • 非正規雇用者の年金加入率の低さ

特に若い世代では「将来、年金がもらえるのか」という不安が広がっており、世代間の不公平感が強まっています。

まとめ

日本の相対的貧困率の高さは、私たちの社会に「見えない格差」が広がっていることを示しています。これは個人の努力不足ではなく、社会保障制度の構造の問題ともいえるでしょう。特に「申請主義」の壁や生活保護制度の捕捉率の低さは、本当に支援を必要とする人々に届いていないことを表しています。

この状況を改善するためには、制度の見直しだけでなく私たち一人ひとりが「見えない貧困」に対する理解を深め、社会全体で支え合う意識を持たなければなりません。特に若い世代の皆さんには、自分自身の将来だけでなく、社会全体のあり方について考え、行動することが求められています。

相対的貧困の問題は決して他人事ではなく、誰もが当事者になり得る社会の課題ではないでしょうか。一人ひとりが関心を持って声を上げることで、より公平な社会が実現できるでしょう。