日本人はなぜ世界に出なくなったのか?パスポート保有率低下の要因

日本人はなぜ世界に出なくなったのか?パスポート保有率低下の要因

日本は世界で最も評価の高いパスポートを持ちながら、その保有率はわずか17%。この数字は、現代の日本社会が抱える大きな矛盾を象徴しています。

かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれ、世界に羽ばたいていた日本人の姿は、今や大きく様変わりしました。特に若い世代の「海外離れ」は深刻で、グローバル化が進む世界の中で日本だけが「ガラパゴス化」していくことが懸念されます。

日本人のパスポート保有率の現状

日本人のパスポート保有率の現状

2023年末時点での日本人のパスポート保有率は約17%で、これは約6人に1人しかパスポートを持っていないことを意味します。この数字は、アメリカの50%以上、韓国の約40%、台湾の約60%と比較して著しく低い水準です。さらに懸念されるのは、この数字が年々低下傾向にあることです。

2019年には23.8%だった保有率がわずか4年で17%まで落ち込んでいます。その中でも特に深刻なのは若者層の状況です。最近の調査によると、Z世代の約7割がパスポートを持っていないと回答し、73%以上が学生時代に海外渡航経験がないと答えています。

日本人の海外留学生数も2019年度の10万7346人から2022年度には5万8162人にまで減少しており、グローバル化が加速する世界の中で、日本の若者が国際的な経験を積む機会を失っていることを示しているといえるでしょう。

世界から高い評価を受ける日本のパスポート

日本のパスポートはビザなしで194カ国に渡航可能で、シンガポール、フランス、ドイツ、イタリア、スペインと並んで2024年のランキングで世界第1位を獲得しています。この評価は、世界第3位の経済大国としての地位や、日本人の高い信頼性、優れたマナーが国際的に認められた結果です。日本のパスポートが高い評価を受ける主な理由として、以下が挙げられます。

  • 世界3位の経済大国としての地位と強大な消費能力
  • 低い失業率と充実した社会福祉による不法移民リスクの低さ
  • 日本人観光客の優れたマナーと誠実さ

パスポート保有率低下の要因

日本人のパスポート保有率低下の背景には、経済的要因や社会的要因、若者の意識変化という3つの大きな要因が存在します。

経済的な要因

経済的要因としては、円安による海外旅行費用の高騰や、物価上昇による可処分所得の減少が挙げられます。特に、海外修学旅行の費用が80万円程度にまで高騰していることは、多くの家庭にとって大きな負担になっているといえるでしょう。

社会的な要因

社会的要因としては、コロナ禍による渡航制限の影響が依然として残っているほか、世界情勢の不安定化やリモートワークの普及による出張機会の減少なども影響しています。

意識変化の要因

さらに、若者の意識変化も大きな要因です。19〜25歳の男女に「海外旅行に行きたいか」と聞いた調査では、「行きたいと思わない」が57.3%「行きたいが社会情勢が不安」が23.0%でした。SNSやVRによる疑似体験での満足、言語の壁への不安、そして国内での充実した観光体験により、実際の海外渡航への意欲が低下しています。

日本人が世界に飛び立つために

日本人が世界に飛び立つための取り組み

この状況を改善するため、観光庁と日本旅行業協会は「今こそ海外!宣言」を発出し、以下のようなものを筆頭に、さまざまな施策を展開しています。

  • 新成人へのパスポート無償配布制度の検討
  • 若者向け海外渡航支援プログラムの拡充
  • 海外修学旅行費用の補助制度の拡充

これらの施策に加えて、民間企業も独自の取り組みを進めています。例えば、ピーチ・アビエーションは、パスポートを新規取得・更新した人に航空券購入などに使えるポイントを提供するキャンペーンを2023年に実施していました。JTBもパスポート取得費用分のポイントを提供するなど、具体的な支援を行っています。

また、オンラインを活用した国際交流プログラムの推進や、海外修学旅行費用の補助制度の拡充、語学教育の実践的アプローチの強化など、教育現場での取り組みもはじまっているのです。特に注目されているのは、新成人へのパスポート無償配布制度の検討で、これにより若者の海外渡航のハードルを下げることが期待されています。

日本の企業に求められること

これらの取り組みが実を結ぶためには、長期的な視点での継続的な支援が不可欠です。特に、若者の海外渡航を促進するためには、経済的支援だけでなく、グローバルな視点を持つことの重要性を早期教育の段階から伝えていく必要があります。

企業に求められる取り組みとしては、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 海外経験を持つ人材の積極的な採用
  • 海外経験者のキャリアパスの明確化
  • 若手社員の海外派遣プログラムの充実

一部の企業では、すでにこれらの取り組みの効果が現れはじめています。例えば、海外インターンシップ参加者への奨学金制度を設立し、年間100名以上の学生が海外での就業体験を積んでいる大学もあります。また、企業による若手社員の海外派遣プログラムも増加傾向にあり、グローバル人材の育成に向けた動きが加速しているといえるでしょう。

まとめ

パスポート保有率の低下は、単なる観光産業の問題ではなく、日本の国際競争力に関わる重要な課題です。特に若い世代の海外経験不足は、将来の日本のグローバル競争力に大きな影響を及ぼす可能性があります。

世界で極めて評価の高いパスポートを持ちながらそれを活用できない現状は、日本社会の閉鎖性と内向き志向を象徴しているのではないでしょうか。グローバル化が加速する世界の中で日本が取り残されないためにも、この課題への早急な対応が求められています。