世界が直面している移民問題

私たちが住む世界では、今この瞬間も多くの人々が国境を越えて移動しています。2023年の国連の統計によると、世界の移民人口は約2億8,100万人に達し、これは世界人口の約3.6%を占めているのです。彼らは仕事を求め、戦争から逃れ、よりよい教育の機会を求め、あるいは気候変動の影響から身を守るために移動しています。

移民問題は単なる数字の問題ではなく、一人ひとりの人生と希望、そして受け入れ社会の変化を含む複雑な現象なのです。今回は、特に世界各地で起きている主な移民問題に焦点をあて、その実態と課題について考えていきましょう。

地域別にみる移民問題

地域別にみる移民問題

ヨーロッパ

ヨーロッパでは2015年にはじまった「欧州難民危機」以降、移民問題は政治的・社会的な課題です。北アフリカや中東から命がけで地中海を渡り、イタリアやギリシャなどに到着する人々の数は一時期に比べると減少したものの、依然として続いています。

statistaによると、2024年だけでも地中海を渡る途中で2,000人以上が命を落としたとされており、これは毎日6人以上が海で亡くなっている計算です。とても胸が痛む現実といえるのではないでしょうか。

2014年から2024年にかけて地中海で記録された移民の死亡者数(単位:人)

なお、現状のヨーロッパ各国の対応は以下のとおりです。

  • ドイツ:2015年に100万人以上の難民を受け入れたが、その後は制限的な政策に転換
  • ハンガリー:国境に壁を建設し、移民の流入を厳しく制限
  • スウェーデン:かつては寛容な難民政策で知られていたが、近年は制限を強化

特に注目すべきは、移民問題がEU内の結束を試す政治問題となっていることです。「ダブリン規則」と呼ばれるEUの法律では、最初に到着した国が難民申請を処理する責任を負いますが、これにより地中海沿岸国に大きな負担がかかっているのです。

北米

アメリカ・メキシコ間は、世界でも多くの人が越える国境の1つです。中南米諸国からの移民は、暴力や貧困、気候変動の影響から逃れるために危険な旅を続けています。

たとえば、以下のグラフととおり2023年12月に米国国境警備隊は約30万人の不法越境者を拘束しました。これは、歴史的に見ても非常に高い数字といえます。

南西部国境で不法入国した拘束者数の推移 (単位:人)

アメリカ・メキシコの国境における移民問題の特徴は、以下のとおりです。

  • 「キャラバン」と呼ばれる大規模な移民集団の北上
  • 子どもだけで国境を越える「単独未成年者」の増加
  • 人身売買組織による移民の搾取

1度目のトランプ政権時代にはじまった「国境の壁」建設は象徴的な政策となりましたが、その後のバイデン政権下でも移民流入の管理問題が続きました。2024年にはテキサス州とバイデン政権の間で移民政策をめぐる対立が激化し、連邦と州の権限をめぐる憲法問題にまで発展したのです。

アジア

アジア地域の移民問題は、労働移民から難民までさまざまです。事例をいくつか見てみましょう。

ロヒンギャ難民
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャは、2017年の軍事作戦を機に大量にバングラデシュへ避難しました。現在も約100万人が、バングラデシュの難民キャンプで厳しい生活を強いられています。

日本の外国人労働者
少子高齢化が加速している日本では、外国人労働者の受け入れが進んでいます。2019年に新設された「特定技能制度」により、より多くの外国人が日本で働けるようになりました。

厚生労働省によると、2023年10月末時点で日本における外国人労働者数は約202万人に達し、過去最高を更新しています。みなさんの周りにも、外国から来た方が働いている場面を見かけることが増えたのではないでしょうか。

中東の出稼ぎ労働者
サウジアラビアやUAEなどの湾岸諸国では、南アジアや東南アジアからの出稼ぎ労働者が経済を支えています。しかし「カファラ制度」と呼ばれるスポンサーシップ制度のもと、労働者の権利侵害が国際的な批判を受けているのです。

受け入れ国が直面する課題

受け入れ国が直面する課題

移民を受け入れる国々は、さまざまな課題に直面しています。これらの課題は短期的には負担に見えることもありますが、長期的には社会の多様性や経済成長につながる可能性もあるでしょう。

社会統合の難しさ

異なる文化や言語を持つ移民を社会に統合することは簡単ではありません。特に、教育や住宅、医療などの公共サービスへのアクセスを確保しながら、文化的な摩擦を最小限に抑える必要があります。

フランスやドイツでは、移民の子どもたちの教育成果が地元の子どもたちに比べて低い傾向があり、これが将来的な社会格差につながる懸念があります。

経済的影響

移民の経済的影響については、さまざまな見方があります。移民がもたらす経済的なメリットは、以下のようなものが挙げられます。

  • 労働力不足の解消
  • 新たな技術や知識の導入
  • 起業家精神の注入
  • 消費の拡大

一方で、低賃金労働市場での競争激化や、社会保障制度への負担増加を懸念する声もあります。OECDの研究によれば、移民は受け入れ国のGDPに対し平均してプラスになる貢献をしていますが、その分配は均等ではないことが指摘されているのです。

支持を集める反移民を掲げる政党

支持を集める反移民を掲げる政党

近年、ヨーロッパを中心に反移民を掲げる政党が支持を伸ばしています。イタリアのジョルジャ・メローニ首相率いる「イタリアの同胞」フランスの国民連合(旧・国民戦線)、ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)などが代表例です。

これらの政党は移民が自国の文化的アイデンティティを脅かし、治安を悪化させ、社会保障制度に負担をかけると主張しています。特に、経済的不安や社会的変化に不安を感じる層からの支持を集めているといえるでしょう。

2024年6月に予定されている欧州議会選挙では、これらの政党がさらに議席を増やす可能性が指摘されており、EUの移民政策にも影響を与えることが予想されています。

まとめ

世界各地で深刻化する移民問題には、単純な解決策がありません。移民を送り出す側の貧困や紛争といった根本原因への取り組みと、受け入れ国での社会統合の促進を同時に進めなければならないでしょう。

私たちにできることは、移民問題の複雑さを理解し、身近な地域で暮らす外国にルーツを持つ人々との交流を通じて互いに理解を深めることです。未来を担うみなさんには、この複雑な問題に対して多角的な視点から考え、より公正で持続可能な共生社会の実現に向けたアイデアを生み出していくことが期待されています。