自動運転関連株が下落している理由とは

自動運転関連株が下落している理由とは

「10年後には自動運転車が当たり前になる」 2010年代半ばには、このような未来予測が飛び交っていました。テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、当時「2020年までに完全自動運転を実現する」と豪語し、グーグルの自動運転部門であるWaymoも急速な普及を予測していました。

しかし2025年現在、私たちの街を走る車の大半はまだ人間が運転しています。この「期待と現実のギャップ」が、世界中の自動運転関連銘柄の株価下落を引き起こしているのです。

自動運転が直面する3つの壁

自動運転が直面する3つの壁

技術的な壁

自動運転技術は、単純なプログラミングだけでは解決できない以下のような技術的な課題に直面しています。

  • 予測不能な状況への対応
  • 悪天候での性能低下
  • エッジケースの無限性

工事現場や事故現場などの予測不能な状況にAIが適切に対応することは、まだまだ難しい状況です。また、雪や豪雨、濃霧などの悪天候下ではセンサーやカメラの性能が著しく低下し、安全な自動運転ができなくなってしまいます。

さらに、道路上で起こりうる特殊な状況は無数にあり、それらすべてに対応するAIの開発には想定以上の時間とリソースが必要とされています。

法規制の壁

技術的な課題以上に大きな壁となっているのが、法規制の問題です。自動運転車が公道を走るためには、各国・各地域の法律や規制に適合しなければなりません。

日本では2019年に改正道路交通法が施行され、特定条件下でのレベル3自動運転が法的に認められるようになりましたが、完全自動運転の実用化に向けた法整備はまだ途上です。一方、アメリカでは州ごとに規制が異なり、統一された枠組みがありません。

なお、自動運転のレベルは以下のように分けられています。

レベル概要安全運転の主体普及状況
レベル0運転自動化なし
(全てドライバーが運転)
ドライバー一般的
レベル1単独型運転支援
(アクセル・ブレーキ・ハンドルのいずれかをシステムが支援)
ドライバー広く普及
レベル2複合型運転支援
(アクセル・ブレーキ・ハンドルの複数をシステムが支援)
ドライバー普及段階
レベル3条件付自動運転
(特定条件下でシステムが運転、緊急時はドライバーが対応)
システム
(条件付)
一部実用化
レベル4高度自動運転
(特定条件下でシステムが全て実施、ドライバー不要)
システム実証実験段階
レベル5完全自動運転
(あらゆる状況でシステムが全て実施)
システム未実現
出典:国土交通省「自動運転のレベル分けについて」

自動運転レベル4以上は、まだまだ普及が難しいといえるのではないでしょうか。

コストの壁

自動運転技術の実用化を遅らせている3つ目の壁が、コスト問題です。現在の自動運転システムには、高価な部品などを用意しなければなりません。

  • 高精度LiDAR(レーザーレーダー):1台あたり数十万円〜数百万円
  • 高性能コンピューター:数十万円
  • 高精度3Dマップ:継続的な更新コストが発生

※LiDARとはレーザー光を照射して、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術のこと

これらのコストは、一般消費者向けの車両に搭載するには高すぎるため、普及の大きな障壁となっています。

中国企業の台頭と価格破壊

中国企業の台頭と価格破壊

自動運転関連銘柄の株価下落には、中国企業の急速な台頭も大きく影響しています。

中国政府は「中国製造2025」などの国家戦略の一環として、自動運転技術の開発に巨額の補助金を投入しているのです。その結果、百度(Baidu)のApollo、小馬智行(Pony.ai)などの中国企業が急速に技術力を高め、グローバル市場に参入しています。

特に注目すべきは、中国企業による「価格破壊」です。例えば、中国のLiDARメーカーは、従来の欧米製品の半額以下の価格で高性能LiDARを提供し始めています。

この中国企業の台頭により、米国の自動運転関連企業のバリュエーション(企業価値評価)は大きく下落しています。テスラやMobileye、Luminar Technologiesなどの株価は2023年から2025年にかけて大幅に下落しました。

自動運転と実需のギャップ

自動運転と実需のギャップ

自動運転関連銘柄の株価下落の背景には、企業側の「過大投資」とユーザー側の「実需」とのギャップもあります。

多くの消費者は完全自動運転よりも、高速道路での渋滞時自動運転や駐車支援など、特定の状況で役立つ自動運転レベル2〜3の機能を求めています。完全自動運転に対しては、追加コストへの支払い意欲が限定的で「必要性を感じない」「高すぎる」という声が多いのが現状です。

このような消費者ニーズと企業の開発方針のミスマッチが、関連銘柄の株価下落の1つの要因となっています。投資家は当初の楽観的予測から現実を見据えた評価へと転換しつつあります。今後は消費者が本当に求める機能を適切な価格で提供し、段階的に価値を届けるビジネスモデルの構築が求められるのではないでしょうか。

まとめ

自動運転技術は確かに進化を続けていますが、当初の予測からは大きく遅れています。技術的課題や法規制、コスト問題という3つの壁に加え、中国企業の台頭による価格競争の激化、そして企業の投資方針と消費者ニーズのミスマッチが、自動運転関連銘柄の株価下落を引き起こしているといえるでしょう。

2015年時点では「2025年までにレベル4/5の自動運転車が一般道で普及する」と予測されていたものの、2023年の調査では「2030年以降」に修正されています。このような予測の下方修正が、投資家の期待値を引き下げる要因となっています。

しかし、これは自動運転技術そのものの価値が否定されたわけではありません。むしろ「夢」から「現実」へと移行する過程で、より持続可能なビジネスモデルが模索されているのです。特に若い世代の皆さんには、テクノロジーの進化と社会実装のギャップを理解し、技術の可能性だけでなく、法規制や消費者ニーズなどさまざまな視点から産業の発展を捉える目を養っていただきたいと思います。