「親ガチャ」という言葉を聞いたことはありますか?生まれてくる家庭を選べないことを、スマホゲームのガチャに例えた言葉です。一見すると冗談のように聞こえるかもしれませんが、実は日本の教育現場では深刻な現実を映し出しているんです。親の経済力によって子どもが受けられる教育の質や量が大きく変わり、それが将来の進路や収入にまで影響を及ぼしています。
こうした「教育格差」は、もはや個人の努力だけでは乗り越えられない社会構造の問題になっているといえるでしょう。今回は、データや具体例をもとに、日本の教育格差の実態と、それが生み出す階層の固定化について一緒に考えていきます。
親の年収が決める子どもの未来

教育格差を語る上で避けて通れないのが、親の所得と子どもの学力の相関関係です。実際のデータを見ると、その関係性ははっきりと表れています。お茶の水女子大学が行った2018年の調査によれば、世帯年収1,500万円以上の家庭の子どもと、年収200万円未満の家庭の子どもでは、中学3年生の数学で約25ポイントもの差が生じています。
<世帯年収別の子どもの学力(中学3年生・数学の正答率)>
| 世帯年収 | 正答率(中学3年生・数学) |
|---|---|
| 200万円未満 | 約55% |
| 400~600万円 | 約65% |
| 800~1,000万円 | 約72% |
| 1,500万円以上 | 約80% |
この差は学力の違いだけでなく、将来の進路選択の幅にも直結します。経済的な理由で大学進学を諦めたり、奨学金という借金を背負ってスタートせざるを得ない若者が増えているのが現状です。
教育にかかる見えないコスト

「義務教育は無償」といわれていますが、実際には教育には多くの「見えないコスト」がかかっています。文部科学省の調査によれば、私立小学校に通う子どもの年間学習費総額は約166万円、公立小学校でも約35万円の教育費がかかります。
幼稚園から大学まですべて公立に通った場合でも約800万円、すべて私立なら2,000万円を超える費用がかかります。この金額を用意できるかどうかが、子どもの教育機会を大きく左右しているといえるでしょう。物価高が続く中、子どもの習い事にも影響が及んでいます。最も懸念されるのは低所得層への影響です。
- 一般的な塾に通えない
- 家庭に学習机がない
- 参考書や教材を十分に買えない
- オンライン学習に必要な機器が揃わない
こうした教育環境の格差は、機会の不平等に直結しています。イー・ラーニング研究所の調査では、保護者が特に取組みを強化してほしい課題として「教育格差」が最多となり、「子どもの貧困」「いじめ問題」と続いています。
奨学金という名の借金を背負う若い世代

大学進学率は約50%を超えていますが、その半数以上が何らかの奨学金を利用しています。この「奨学金」という言葉には注意が必要です。日本の奨学金の多くは「貸与型」、つまり返済義務のある借金です。欧米諸国で一般的な「給付型奨学金」(返済不要)とは性質が異なります。
調査によると、奨学金を借りている学生の約7割が返済を自分で全額負担する予定だと答えています。社会人としてのスタート時点で数百万円の借金を背負うことは、その後の人生設計に以下のような影響を与えます。
- 結婚や出産、子育てに影響があると回答した人が約4割いる
- 返済が3ヶ月以上滞ると信用情報機関に登録される可能性がある
- 結婚を断られるケースもある
- リスクを取った起業やキャリアチェンジが困難になる
一方、親の経済力がある学生は借金なしで社会人生活をスタートできます。この「スタートラインの違い」こそが、世代を超えて格差を生み出す要因となっているのです。
世界から見た日本の教育投資

世界に目を向けると、多くの先進国が教育の無償化や給付型奨学金の拡充を進めています。北欧諸国では大学の授業料が無料であるだけでなく、学生に対して生活費の支給まで行われています。
日本でも2020年から低所得世帯の学生に対する給付型奨学金と授業料減免が実施され、2025年度からは3人以上の子どもがいる多子世帯に対して大学などの学費を無償化する方針が進められています。また、2025年2月には高校授業料の所得制限が撤廃されました。
しかし、日本の教育への公的支出は国際的に見て低い水準にあります。
<日本の教育への公的支出(国際比較)>
| 項目 | OECD平均 | 日本 |
|---|---|---|
| 教育への公的支出 (対GDP比) | 4.7% | 3.9% |
| 公的支出全体に占める教育費の割合 | 11% | 7.1% |
| 高等教育への公財政支出 (在学者1人あたり) | 15,102ドル(約230万円) | 8,184ドル(約130万円) |
日本はほかの国と比べて、公的支出のうち社会保障や健康への割合が高く、教育への投資は相対的に低くなっています。家計が教育費を負担する割合が高く、結果として親の経済力が子どもの教育機会を決定する構造となっているのが現状です。
まとめ
「親ガチャ」という言葉が若者の間で広まった背景には、努力だけでは乗り越えられない構造的な不平等への諦めがあります。親の所得と子どもの学力・学歴には明確に関連しており、それが次の世代の所得格差にもつながっています。教育格差の解消には、給付型奨学金の拡充や公教育の質の向上、家庭の経済状況に左右されない学習機会の提供、そして教育への公的支出の増加が必要です。
フィンランドでは、就学前教育から大学まで学費が無料であり、給食、教材、通学費も無償です。結果として、親の所得や学歴による子どもの学力差が最小化されています。生まれによって人生の選択肢が制限される社会ではなく、すべての子どもが自分の可能性を追求できる社会を目指すこと。それは私たち一人ひとりが考えるべき、未来への投資といえるでしょう。あなた自身も、この問題について身近なところから考えてみませんか。

