非正規が4割超え?日本の雇用格差と見えない貧困のリアル

日本の雇用格差の現実

「将来は自由に働きたい」「安定した生活を送りたい」など、働き方に対する考えは人それぞれだと思います。しかし、現在の日本の雇用環境は大きく変化しており、働く人の約4割が非正規雇用であるという現実があります。

これは単なる数字の変化にとどまらず、一度非正規雇用になると、そこから正社員になるのが難しくなる傾向があることを意味します。本コラムでは、この現状を経済的な視点から解説します。社会の仕組みを正しく理解しておくことは、これから社会に出る皆さんが自分の将来を考えるうえで、非常に重要です。

非正規雇用が普通になった日本

かつての日本では、新卒で正社員になり、定年まで同じ会社で働くのが一般的でした。しかし、バブル崩壊やリーマンショックを経て、その状況は変わっています。総務省の調査などの統計を見ると、役員を除く雇用者全体のうち、パートやアルバイト、派遣社員などの非正規職員・従業員が占める割合は約37%前後で推移しており、労働者の4割近くが非正規という状態です。

非正規雇用の割合推移
引用:厚生労働省「「非正規雇用」の現状と課題」

厚生労働省のデータを確認すると、平成元年には20%以下だった非正規雇用の割合が、年々増加してきたことがわかります。なぜこれほど増えたのでしょうか。大きな理由は、企業が人件費を調整しやすくするためです。

日本の法律では正社員を解雇するための条件が厳しいため、企業は景気が悪くなったときに契約を終了しやすい非正規雇用を増やしてきました。企業にとっては合理的な判断ですが、働く側にとっては「契約がいつ終わるかわからない」という不安定な状態が続いています。

生涯賃金に1億円以上の差が出る

「働き方が自由なら、非正規でもいいのでは?」と考える人もいるかもしれません。確かに、専門的なスキルを持って高収入を得ている人もいます。しかし、統計上の大多数においては、正社員と非正規雇用の間に大きな賃金格差が存在します。

各種統計をもとに計算すると、正社員と非正規雇用の生涯賃金(一生で稼ぐお金の合計)の差は、1億円以上、場合によっては2億円近くになると言われています。これは、毎月の給料の差が積み重なった結果であり、人生の選択肢に影響を与える大きな金額です。主な違いは、以下の3点です。

賞与(ボーナス)の有無

正社員には支給されるボーナスが、非正規雇用には支給されないか、少額であることが多いです。

退職金制度の有無

老後の資金となる退職金も、非正規雇用にはほとんど適用されません。

昇給の違い

正社員は勤続年数や役職に応じて給与が上がりますが、非正規雇用は最低賃金に近い金額のまま、何年働いても時給がほとんど上がらないケースがあります。

公益財団法人 生命保険文化センターのデータを見ると、正社員の賃金は年齢とともに上がっていく一方、非正規雇用は年齢に関わらずほぼ横ばいであることが分かります。

雇用形態、性、年齢階級別賃金および雇用形態間賃金格差
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「生活基盤の安定を図る生活設計」

20代のうちは手取り額に大きな差を感じないかもしれません。しかし、30代、40代になり、結婚や子育てなどを考えたとき、この収入の差が生活に大きく影響します。働いても生活が楽にならない問題は、多くの人にとって現実的な課題です。

抜け出せない「スキル」と「制度」の壁

日本では、同じ仕事であれば同じ賃金を払うという法律が施行されました。しかし、実際には「責任の重さが違う」「転勤の可能性がある」といった理由で、仕事内容が完全に同じではないと判断されることが多く、格差は残っています。

さらに問題なのが、「教育機会」の違いです。企業は長く働く正社員に対しては研修を行いますが、契約期間のある非正規雇用に対しては、コストのかかる教育を行わない傾向があります。

教育機会の違い
  • 正社員:職場での指導(OJT)や研修を通じて、スキルが身につく。
  • 非正規:単純作業が多く、年齢を重ねてもスキルが身につきにくい。

このため、時間が経つほど正社員とのスキルの差が広がり、いざ正社員へ転職しようとしても経験不足と判断され、採用されにくくなってしまいます。これが、一度非正規になると正社員に戻るのが難しい理由のひとつです。

まとめ

ここまで、日本の雇用の現状について解説しました。「非正規雇用が約4割」という事実は、安定した雇用環境にある人と、そうでない人の二極化が進んでいることを示しています。この格差は社会の仕組みによる部分が大きく、個人の努力だけでは解決が難しい面もあります。

しかし、この現状を事前に知っておけば、対策を立てることは可能です。新卒採用の重要性を理解して就職活動を行うことや、もし非正規雇用を選ぶ場合は、会社に頼らず自分でスキルを身につける必要があることを理解しておくことなどです。

こうした知識を持っているかどうかが、将来の自分を守ることにつながります。ぜひ、この現状を踏まえたうえで、ご自身の進路を考えてみてください。