ChatGPT世代が知っておくべきAI投資ツールのリスク

ChatGPTをはじめとするAI技術の発展により、投資の世界でも「AI任せ」の流れが広がっています。ロボアドバイザーや投資助言アプリが次々と登場し、とくにデジタルネイティブ世代の若手投資家の間で注目を集めています。

たしかにAIは膨大なデータを瞬時に処理し、感情に左右されない冷静な判断を下すことができます。しかし、投資の世界には数字だけでは測れない複雑な要素が存在するのも事実です。今回は、AI投資ツールの限界と、人間だからこそ必要な投資判断について詳しく見ていきましょう。

AIによる投資助言の限界

AI投資ツールの多くは、過去の株価データや経済指標をもとに将来の市場動向を予測します。機械学習によって過去のパターンを学習し、似たような状況で株価がどう動いたかを分析するのです。

機械学習:コンピューターが大量のデータから自動的にパターンを見つけ出し、予測や判断をおこなう技術

しかし、金融市場には「過去の成績は将来の運用成果を保証するものではない」という大原則があります。2008年のリーマンショックや2020年のコロナショック、そして2025年のトランプ関税ショックのような予期せぬ出来事は、過去のデータには存在しない「ブラックスワン」と呼ばれる現象です。

ブラックスワン:予測困難で、発生すると大きな影響を与えるまれな出来事

実際に、2025年4月のトランプ関税発表時には、日経平均株価が3月26日のピークから4月7日までの間に18%下落しました。このような急激な変動は、過去のデータに基づくAI予測では対応が困難な典型例といえるでしょう。

AIが苦手とする投資判断の特徴は、以下のとおりです。

• 前例のない政治的・社会的変化への対応
• 新技術や新サービスの市場への影響評価
• 投資家心理の急激な変化への対応

これらの要素は数値化が困難で、人間の直感や経験に基づく判断が重要になる場面なのです。

ロボアドバイザーのリスク

ロボアドバイザーは、投資家のリスク許容度に応じて自動的にポートフォリオを組み、定期的にリバランスをおこなってくれる便利なサービスです。手数料も比較的安く、投資初心者には魅力的に映ります。

ロボアドバイザー:AIを活用して自動的に資産運用をおこなうサービス
リバランス:投資比率を元の配分に戻すため、資産の売買をおこなうこと

現在、日本国内では多数のロボアドバイザーサービスが提供されており、市場は着実に拡大しています。生成AIの活用により、より個人に最適化されたアドバイスの提供が可能になってきています。しかしロボアドバイザーには、投資家個人の人生設計や価値観を十分に反映できない大きなリスクがあります。

たとえば、新社会人が転職を検討している時期に株価が大きく下落した場合を考えてみましょう。ロボアドバイザーは機械的に「買い増しのチャンス」と判断するかもしれません。しかし、転職活動中で収入の見通しが立たない状況では、リスクを取るべきではないでしょう。

人間が介入すべき投資判断のタイミングには、以下のような場面があります。

• 転職や結婚など人生の転機
• 家族構成の変化(結婚、出産、介護など)
• 経済状況の大幅な変化

これらの判断は、AIには難しい「人生の文脈」を理解する必要があるのです。

AIが読めない市場心理

株式市場は「投票機械」とも呼ばれ、投資家の感情や期待が価格に大きく影響します。とくに短期的な株価変動は、企業の業績よりも投資家心理に左右されることが多いのです。

投資家心理が株価に与える影響

2025年の関税ショック時の市場反応を見ると、投資家心理の重要性がよくわかります。トランプ大統領が相互関税を発表した際、対象となった各国の株式市場は軒並み大幅下落しました。

<関税ショック時の各国株式ファンドへの影響>

対象国相互関税率国内籍単一国株式ファンド
純資産総額(億円)
日本24%968,366
中国34%→145%1,379
インド26%35,116
ベトナム46%1,458
出展:松井証券「長期投資家は「トランプ関税ショック」にどう向き合うべきか?」

この表からもわかるように、関税率の高さと市場への影響は必ずしも比例しません。中国はもっとも高い関税率を課されましたが、純資産総額は比較的小さいです。一方で日本は24%の関税率でありながら、最大の純資産総額を持つファンドが影響を受けました。

市場心理を読むために必要な判断

このような市場心理を読むには、以下のような要素を総合的に判断しなければなりません。

• メディアの報道の雰囲気や頻度
• SNSでの投資関連の話題の盛り上がり
• 投資セミナーや書籍の人気度

AIは数値データの処理は得意ですが、こうした「空気感」を読むのは苦手分野なのです。実際に、関税ショック後の市場回復についても、「投資家の心理は過去のショック時と同レベルの弱気水準」に達したものの、その後1ヶ月で関税前の水準を取り戻すという予想外の展開を見せました。

デジタルネイティブ世代の投資の落とし穴

スマートフォンで簡単に投資ができる時代になり、若い世代でも気軽に投資をはじめられるようになりました。しかし、デジタルネイティブ世代特有の落とし穴もあります。

情報過多による判断力の低下

インターネット上には投資に関する情報があふれています。YouTubeやX(旧Twitter)、投資アプリなど、さまざまなチャネルから情報を得られる一方で、情報の質を見極めることが困難になっています。

とくに若い世代の場合、Google AI Proのような高性能なAIツールが学生に無償提供されるなど、AI技術へのアクセスが簡単になっています。しかし、AIが提供する情報をそのまま投資判断に活用することには注意が必要です。

ゲーム感覚での投資

スマホアプリの普及により、投資がゲーム感覚でおこなえるようになりました。しかし、投資は実際のお金を扱います。バーチャルな感覚で投資を続けると、リスク管理がおろそかになる危険性があります。

AI依存による思考停止

生成AIの普及により、若い世代の間でも「AIに聞けば何でもわかる」という風潮が広がっています。しかし、投資判断においては、AIの回答をそのまま受け入れるのではなく、自分自身で考える習慣を身につけることが重要です。デジタルネイティブ世代が注意すべきポイントは、以下のとおりです。

• 短期的な値動きに一喜一憂しない
• 複数の情報源から情報を収集し、クロスチェックする
• 投資は余裕資金でおこない、生活費には手をつけない

これらの基本原則を守ることで、AIツールを上手に活用しながら投資を進めることができるでしょう。

まとめ

AI技術の発展により、投資の世界は確実に変化しています。ロボアドバイザーや投資助言アプリは、投資初心者にとって心強い味方となることは間違いありません。しかし、投資判断のすべてをAIに任せるのは危険です。

個人のライフプランとの整合性や投資家心理の読み取りなど、人間だからこそできる判断が数多く存在します。とくにデジタルネイティブ世代のみなさんには、AIツールを「補助」として活用しながら、自分自身の判断力を磨いていくことをおすすめします。AIと人間の知恵を組み合わせることで、投資でよりよい成果を出せるようにしていきましょう。