皆さんは普段、安全に暮らせることをどのくらい意識しているのでしょうか。実は私たちが平和な日常を送れるのは、国の安全がしっかり守られているからなのです。最近の世界情勢はめまぐるしく変化していて、日本を取り巻く安全保障環境も年々厳しくなっています。
毎年発行される「防衛白書」は、そのような状況を知るための貴重な資料です。令和6年版防衛白書では、ロシアのウクライナ侵攻が長引いていることや中国が軍事力を強めていることなど、世界の安全保障環境の変化が詳しく分析されています。本コラムでは、世界の防衛費の動きから日本の防衛政策まで、防衛白書の内容をわかりやすく伝えていきます。
世界の防衛費の動向

2015年以降、世界の主要国はどんどん防衛費を増やしています。世界の防衛費の総額は2024年で約2.3兆ドル(約330兆円)にも達し、過去最高を更新しているのです。
主要国の防衛費の推移を見てみましょう。
米国

2024年度の防衛費は約8,860億ドル(約126兆円)で世界全体の約38%を占めています。中国との戦略的競争を重視し、宇宙・サイバー・AI分野への投資を強化。「統合抑止」の考え方に基づき、同盟国との協力も推進しています。
中国

2024年度の公表防衛費は約1兆6655億元(約34.9兆円)で、35年連続増加。実際の額はさらに高いと分析されています。海軍力強化と新領域(宇宙・サイバー・電磁波)での能力向上に注力し、2027年までに「世界一流の軍隊」を目指しています。
ロシア

2024年度の防衛費は当初約10.8兆ルーブル(約16兆円)に達し、ウクライナ侵攻後に大きく増加。戦時体制を反映した予算配分で、装備補填や防衛産業強化に重点を置いています。経済制裁下でも防衛費を優先確保しており、2025年の予算案では13.5兆ルーブル(約20兆円)と、2024年と比較して25%増額するとしています。
日本の防衛費の動向

日本の防衛費は冷戦が終わったあと、長い間あまり変わらないか少しずつ増える程度でしたが、2013年度からは12年連続で増加しています。2023年度の防衛費は約6.8兆円、2024年度の予算案ではさらに増えて約7.9兆円になっています。

日本の防衛費の動きを詳しく見ると、以下のような特徴があります。
- 長年GDP比1%くらいで推移してきたが最近は上がってきている
- 2022年12月に安保三文書が改定され、2027年度までにGDP比2%相当を目指すことになった
この変化は、日本の周りの安全保障環境が悪くなってきたことを受けて、防衛力をしっかり強化するための対応といえるでしょう。
日本を取り巻く安全保障環境

防衛白書とは
「防衛白書」と聞くと難しそうですが、要するに防衛省が毎年発行している日本の防衛政策や安全保障環境を説明した公式の本です。正式名称は「日本の防衛」といって、私たち国民に向けて防衛省・自衛隊の活動や日本を取り巻く安全保障の状況を説明してくれる役割を持っています。
令和6年版防衛白書では「戦後最も厳しい安全保障環境」という認識のもと、日本の大幅な防衛力強化が必要なことが強調されています。
中国の軍事力増強と海洋進出
令和6年版防衛白書では、中国が軍事力を強めて海に進出してくることが、日本の安全保障にとって最も心配なことだと指摘されています。中国は経済が発展するにつれて軍事力もどんどん拡大し、特に海での活動を活発にしているのです。防衛白書で指摘されている主な心配事は、以下のとおりです。
- 尖閣諸島の周りで中国の船が日本の領海に入ってくることが日常茶飯事になっている
- 東シナ海や南シナ海での軍事活動が活発になっている
- 台湾の周りで軍事演習が増えている
これらの活動は日本の安全に直接影響するものなので、防衛白書では特に詳しく分析されています。
北朝鮮の核・ミサイル開発
北朝鮮は2022年から2023年にかけて、これまでで最も多くのミサイルを発射しました。防衛白書では北朝鮮を「重大かつ差し迫った脅威」と位置づけています。北朝鮮の核やミサイルの開発は着実に進んでいて、日本への脅威は年々大きくなっているのです。
なお防衛白書では、北朝鮮の脅威について以下の内容を指摘しています。
- ICBMを含むさまざまな射程のミサイルを開発している
- 核兵器を小さく軽くする技術が進んでいる
- 日本全国どこにでも届く弾道ミサイルが実際に配備されている
こうした脅威に対応するため、日本はミサイル防衛システムを強化したり、情報収集能力を高めたりする取り組みを進めています。
日本の防衛政策

2022年12月に改定された「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」(安保三文書)は、日本の防衛政策の大きな転換点となりました。これらの文書では、厳しくなる安全保障環境に対応するため、日本の防衛政策を根本から見直しています。
新しい防衛政策の主な特徴は、以下のとおりです。
- 「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を持つことになった
- 防衛費をGDP比2%相当まで増やすことになった
- 自衛隊の体制を見直して、より効果的な運用を目指している
これらの方針は、戦後の日本の安全保障政策の中でも特に大きな変化といえるでしょう。
日本の防衛政策において、日米同盟は引き続き最も重要な基盤となっています。また、日本はオーストラリア、インド、ASEAN諸国、欧州などとの安全保障協力も拡大しています。
まとめ
令和6年版防衛白書から見えてくるのは、世界中で防衛費が増えているなか、日本を取り巻く安全保障環境が戦後最も厳しい状況にあるという現実です。中国が軍事力を強めて海に進出してきたり、北朝鮮が核やミサイルの開発を進めたり、ロシアがウクライナに侵攻したりと、日本の安全に影響する要因が重なっています。
こうした状況に対応するため、日本は防衛費を大幅に増やしたり「反撃能力」を持ったりするなど、防衛政策を大きく変えているのです。安全保障は一見すると私たちの日常生活とは関係なさそうに思えるかもしれませんが、実は平和な毎日を守るための大切な土台なのです。
皆さんもニュースや白書などの資料に触れながら、日本の安全保障について自分なりの考えを持ってみてはいかがでしょうか。複雑な国際情勢の中で、私たち一人ひとりが「平和とは何なのか」「安全とは何なのか」と考え続けることが、未来の日本の安全を支える力になるのではないかと思います。