若者の消費離れの個人差と幸福との関係とは? 若者の好奇心が低下している現代の問題をひもとく|杉浦 義典 氏

インタビュー取材にご協力いただいた方

杉浦 義典(すぎうら よしのり)氏 広島大学 大学院人間社会科学研究科・准教授

東京大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員のPD、信州大学人文学部 助教授を経て2007年より広島大学大学院総合科学研究科准教授。専門分野は異常心理学で、心配、強迫性障害、サイコパシーといった幅広い病理のメカニズムを認知心理学的なアイデアを用いながら研究。フジテレビ『ホンマでっか!?TV』、NHK「チコちゃんに叱られる」にも出演。 准教授、博士(教育学)。

バブル世代の若者はパチンコやゴルフを楽しみ、とにかく消費することに熱心でした。現代の若者の特徴は、お金や時間の工夫によって幸福度が上がっていることです。一方、すべての消費に興味を持てず、あらゆることに無関心・無気力な若者たちも存在します。

なぜ若者に消費離れが起きたのか、無気力・無関心な若者が増えている原因とは、好奇心を失った若者を幸福にするにはどのようにすればいいのか。そこで今回、「若者の消費離れ」と幸福感の関連について取り組まれてきた広島大学の杉浦 義典先生にお話を伺いました。

消費離れの若者はバブル時代に対するアンチテーゼ

ーー 先生は幸福研究をされているそうですが、そこから現代の若者についてどのように感じたのでしょうか?

杉浦先生:幸福について研究していると、なんでも相談できる友達がいると幸福度が上がるということは既に分かっています。ただ、それが分かったとしても、「友達が作れないから困る」という場合があると、そのような説はあまり役に立たないわけです。ですから、幸福研究をするスタンスとしては、斜めの視点で見ていくことが重要だと感じました。

ーー 現代の若者には消費離れが起きています。若者の消費離れにはどんな特徴があるのでしょうか?

杉浦先生:2000年前後から「若者の消費離れ」が言われるようになりました。当時は、今ほど貧困が出てきたり、社会が暗くもなかったりしたので、「消費離れ」とは言われながらも、実際には楽しそうに見えたのです。

そのほかにも、アメリカの研究で「マテリアリズム」という言葉があります。「マテリアリズム」とは、いわゆる、バブル時代の発想です。高いものを買って、どれだけ持っているかを競う考え方を言います。「高級車に乗っている自分はどう?」のようにマウントを取る行動です。しかし欧米では、そのような発想は幸福につながるどころか、むしろ幸福を下げてしまうと言われています。

ーー バブル時代に対するアンチテーゼとして消費離れの若者にフォーカスしたのでしょうか?

杉浦先生:バブル時代に対するアンチテーゼであると考え、若者がいろいろな消費をしないことによってなんらかの幸福が得られるのではないか、と希望が持てたのです。そこから研究を始めようと思いました。

ゆとり世代から変化した若者の消費行動

ーー 「消費者白書」によれば、1984年から2014年にかけて若者の消費は減少しているとのことですが、若者の消費が減少した背景にはどのようなことがありますか?

杉浦先生:消費が落ち込むのは当然経済状況を反映しています。それだけではなく、ゆとり世代の心理面を見ると、バブル的なものは「少し昔のダサいもの」と見えてしまい、もはやネタや笑い話になっている印象です。例えば70年代のファッションは何度もリバイバルしていますが、バブル時代のファッションが流行ることはなかったわけです。ゆとり世代になったとき、バブル時代のファッションは「ダサい」と認識され、その感覚は今の若い人にもずっと引き継がれています。

ーー モノに対する消費が減少している一方でSNSを利用するための通信費は増えています。インターネットの利用によって若者の幸福感は高まるのでしょうか?

杉浦先生:インターネットは心理学者も注目していまして、「サイバーサイコロジー」という分野も出てきています。昔から心理学者は、コンピューター上で刺激を作り、現実世界をバーチャルに再構成していました。ですから、ネットの中にある世界と現実の世界はとても近いのです。

例えばエンタメ系コンテンツにおいて、購入方法は以前と違うものの、音楽や映画のサブスクを利用したり、パチンコの代わりにゲームで遊んだりと節約しながら楽しんでいます。確かにサブスクは節約ができるというメリットがあるので、節約の話をしている側としてはいいのかもしれません。一方クリエイターのことを考えた場合、安く済むことが果たしていいことなのかという疑問はあります。どちらにしろ、購入方法が一見違うだけで、若者は音楽や映画を購入しているわけです。

時間やお金を工夫し幸福を感じる一方で、無気力・無関心な若者が増加

ーー パチンコやゴルフなど「昔ながら」の活動をしなくなった若者の幸福度が上がった理由について教えてください

杉浦先生:先ほどお伝えしたマテリアリズムも含めて統計分析をし、「いわゆる昔ながらの活動にお金を使わないのは、バブル的なものがダサいから。だから、そういうダサいことをしないから幸福が高まる」と思っていました。

ところが、実際にマテリアリズムの影響はなかったのです。すると、「昔ながらの活動をしていないのに幸福が上がるってなんだろう?」と疑問が沸きました。それに対して、「節約をしたりとか、お金の使い方を工夫したりする活動をしているのではないか」と考えたのです。

ーー 先生の研究結果では、映画や旅行など「若者にも魅力的」な活動にお金をかけない大学生の幸福感は低かったそうですが、なぜそうした若者の幸福度は低いのでしょうか?

杉浦先生:確かに、パチンコやゴルフなど「昔ながらの活動」と映画や旅行など「若者が好きな活動」は、「モノ消費」と「コト消費」の違いという気はするわけですね。しかし、実際に調べてみると、「昔ながらの活動」と「若者が好きな活動」は、単純に「モノ消費」「コト消費」という分かれ方ではありませんでした。ですから、モノ・コトでは説明できないわけです。

消費離れですから「お金を使わない」ことを計測するために、まずは「映画や旅行にお金を使っているか?」と聞きました。次に、映画や旅行に興味があるかどうかを計測するために、「映画や旅行に興味があるか?」と聞きました。

ところが、幸福度との関連においては、どちらの質問に対しても同じように否定的な答えだったのです。「若者が興味をもちそうな映画や旅行にお金を使わない」という結果から、興味・関心がなくなっているために幸福を下げるのだろうと推測いたしました。

広島大学「【研究成果】消費しない若者はむしろ幸福かもしれない-消費離れの個人差と幸福との関連を実証-:2種類の消費離れと幸福感(人格的な成長)の関連」

出典:広島大学「【研究成果】消費しない若者はむしろ幸福かもしれない-消費離れの個人差と幸福との関連を実証-:2種類の消費離れと幸福感(人格的な成長)の関連」

ーー もしそのような若者の幸福度を上げるとしたら、何が必要だと思われますか?

杉浦先生:まずは、本当に敷居の低い活動、例えば、「コンビニで自分へのご褒美としてスイーツを買ったら楽しかった」という経験。あるいは、「出かけるのもしんどいけど、出かけて、ちょっと好きな漫画を買ってきたら面白かった」のような経験を少し進めてみるといいのではないでしょうか。

ーー そうした無気力・無関心な若者が増えた背景には何があるのでしょうか? まずは1つ目から

杉浦先生:やる気がしないとか、興味が持てず、何に対しても面白いと思えないという若者が増えています。もちろん、うつ病がひどくなると、家から出られなくなりますが、そうではないレベルです。そうした原因には貧困も関係しています。

うつ病の人にもありますが、環境によって良い反応が返ってこない経験をずっと続けていると、ポジティブな部分の反応が弱くなってしまいます。貧困の場合、子供のときから「諦める」「我慢する」ことしかしてきません。「筋肉は使っていないとすぐ衰える」と言いますが、「やって良かった」と思う喜びも、使わないと筋肉が落ちるように萎んでしまいます。

つまり、成功体験が少ない若者は、好奇心がないような状態が常態化し、「何をやってもうまくいかないから、どうせ自分なんか……」と考えてしまうようになるのです。

ーー 2つ目について教えてください

杉浦先生:現代は便利すぎる世の中になり、すぐに結果が出てきます。そのため、過程を楽しむことができず、好奇心がどんどんなくなってきています。昔だったら、映画の上映日に映画館に行ってお金を払わないと観れなかったわけです。ところが今は5分動画でお手軽に見ることができます。動画を見たら、いろいろな感情や気持ちの動きが動いてきそうですが、短時間で終わってしまいます。

また、コンピューターを使う場合、技術や頭をフル回転させる状態ならいいと思いますが、使わないでいると、そこまで好奇心も湧かないでしょう。動画を見るとしても、感情が盛り上がり、ハラハラしたり、ドキドキしたり、ホッとしたりとか、そのように、いろいろな感情が起きてくるぐらいの時間をかけるのがいいでしょう。好奇心を持つには、自分で能動的にやることが大事です。

自分で能動的にやることで人は幸せを感じる

ーー 先生は「幸福とは何なのか」についてどう考えていらっしゃるのでしょうか?

杉浦先生:例えば1日中スマホにかじりついている人がいて、傍から見ると興味が狭いと見えるかもしれません。しかし実はただ受動的にSNSを追っているわけではなく、例えば投資をしたり、あるいはインフルエンサーが世の中を動かすようなことを言っていたりする場合があります。つまり、おもちゃや機械はあくまでも手段であり、自分をフルに使うことが幸せと言えるのではないでしょうか。

ですからオタクは、かなり幸福度が高いと思っています。彼らが欲するマニアックなコンテンツは限定発売のものが多いため、かなり知識がないと購入すらできません。本当に頭をフルに使い、感情もフルに使います。「これだけ粘ったらいい思いができる」ということは、実は感情を使っているわけです。

ですから、「心と体、頭をフルで使ったら人は幸せである」と言えるでしょう。同じスマホの遊びであっても、相当工夫しなければできないものは、幸福を感じられます。パチンコは、単に腕がいいというレベルのパチプロでは幸福度は上がらないかもしれません。しかし、パチンコについて本当に統計まで考えられる人は幸せな人だと思いますね。つまり、内なるものは幸福であるということです。

ーー 最後に読者の方に向けてメッセージをお願いできますか?

杉浦先生:「お金を使わないで幸せになる」という話は貧困を肯定していることになる、と心理学に対して批判的な意見もあります。しかし、うつ病は社会の側に問題があるわけです。決して現代の社会に我慢しろと言っているわけではありません。世の中がどうであれ、たまたま今の時代に自分が生まれたとしたら、自分が生きている、その事実は変えられないわけです。

ただし、大事なことは現状がどうであれ、自分が幸せになることです。環境に慣れるために頑張る必要はないし、環境が悪い場合、離れた方がいいでしょう。その上で、自分が丸ごと没頭できて幸せだと感じることをしてください。


杉浦 義典先生のご紹介リンク:
ー 広島大学 研究者一覧:杉浦 義典 (大学院人間社会科学研究科)